しゃっちーの社畜日記

社畜だけど自由に生きたいからブログにまとめます。会社の愚痴はボヤいて忘れる。

【読書感想文】 服部まゆみ著「この闇と光」読了【ややネタバレあり】

お世話になっております。

以前電子書籍について記事を書きましたが、
こう見えて、わりと読書は好きです。

このブログの右側にも、ブクログの本棚を晒していますので、
興味のある方がもし入らしたら、ご覧になってください。

好きな分野は、吉屋信子や(特定分野の)川端康成に代表される、
いわゆる「少女小説」と呼ばれる、昭和初期頃のジャンルです。
少女漫画とはまた違う世界観なので、その方向の小説はあまり読みません。

もしくは嶽本野ばらのような、独特の雰囲気や美意識を持つ女性が主役の小説が好き、よく読みます。
あとはいわゆる「文豪」ですね。ベタですけど。

そんな偏食家の私が、書店でたまたま目に入った、
服部まゆみ氏の「この闇と光」という小説を手に取り、
表紙の絵と裏のあらすじに一目惚れしたため、一気に読みました。

森の奥深く囚われた盲目の王女・レイア。父王からの優しく甘やかな愛と光に満ちた鳥籠の世界は、レイアが成長したある日終わりを迎える。そこで目にした驚愕の真実とは……。耽美と幻想に彩られた美しき謎解き!(Amazonより)

こんなん、絶対ツボやん!

そんな訳で「この闇と光」を読んだ感想を、
多少ネタバレを含みながら、書き残したいと思います。
といっても、オチや重要な部分までは触れません。あくまで感想程度。

ネタバレがあると思うので、 ふんわりとした内容を知りたい方は、
横のブクログの方に書いておきますので、そちらをご一読ください。

あらすじ

あらすじと言っても、ほぼAmazonの宣伝文句の通りです。

盲目の少女・レイアが、一国の王たる「」と、世話役の「ダフネ」しか接する事のない世界で、
様々な文学や音楽にだけ触れながら、徐々に成長していく物語。

どこまでも優しく、無条件の愛を注ぎ続けてくれる「父」
それとは正反対に、どこまでも冷たく、暴力も振るい、「死ねばいい」と暴言も吐く「ダフネ」

「父」は一国の王であり、戦争に敗れたため、レイアと共に城に幽閉されている。
母親は敵の手から逃れるまでに命を落とし、その時レイアは視力を失います。

レイアがいる部屋の下には「兵士」がいて、言葉すら通じない。
ただ「目が見えない女性」を魔女だと思っているため、見つかると殺されてしまう

そんな環境で幼少期を過ごしたレイアは、ある日突然「ダフネ」に連れられ、
城を出て、車に乗り、行ったことのない場所にまで連れ出される。
「父」もいない、ただ一人で部屋に放置され、次に部屋に入ってきたのは、

自らを「」と名乗る女性だった。

重厚な世界観と、チグハグな細部

と、ここまでが「前半」です。厳密には7割位来ていますけど。
これだけ聞いたら、舞台は中世欧州。もしくは全く架空の世界。
ベタな設定かもしれませんが、「父」の愛情描写や美意識が、
そんな設定を、重厚なものにしていると感じます。

しかし、そんな中に大きく違和感を持つものが、沢山現れます。
それは「罪と罰」「草枕」といった、現実にある小説や音楽の名前。
CDやカセットといった、文明の利器。
更には英語や日本語といった、実際に存在する言語

特に「日本語」の違和感は強烈でした。話している言葉に言及はしないものの、
お互いに日本語を話している事が前提の描写がしっかりあります。
また「兵士」が食事を差し出して「イート(Eat)」と言った時には、
正直この世界観で、受け入れがたいものでした。

もしこれが、このまま最後まで走り抜けていたら、完全に駄作だったと思います
小説で最も重要な設定の一つ「世界観」が、完全にチグハグですから。
子供向けのファンタジーならまだしも、これだけの雰囲気をもった小説が、
こんな片手落ちな世界観でいいのだろうか。

しかしこの「片手落ち」感も、「母」が出て来ることによって、
全て伏線であったということが判明します。
本当に全部伏線だと感じました。もう一度読み返すと、納得ができてしまいます。

ただし、それはそれでいい物でしょうか?
物語の核心に迫るので、多くは触れませんが、
ここからは個人的な感想を、ブツブツと述べていきたいと思います。

面白いけど、やりすぎ。(※ややネタバレ有り)

母が出てきて、世界は全て一遍します。

「父」は「父」ではなく、「ダフネ」は「ダフネ」ではなく、
「兵士」ですら「兵士」ではない。

そしてもちろん、「レイア」も「レイア」ではなかった

全ては「父」と名乗る男が作り上げた世界で、
「レイア」はその中に出てくる、作り上げられた存在でしかなかった。

突然世界観が現実味を帯び、それまで重ね上げてきた重厚な世界観は、
全て虚構であり、「父」の幻想でしかない

前半部分に感じていたチグハグは、こちらに結びつけるための伏線でした。
それは分かります。分かりますし、面白い流れだと思いますが、

そこまでやる? と率直に思ってしまいます。

何もかもがひっくり返ります。どんでん返しなんてものではありません。
根底から覆り、それまでものは跡形もなくなくなります

そこまでやると、もはや別の小説ではないかと感じました。
更に自分は、前半の世界観に惹かれて小説を手に取った訳ですから、
その点は、やり過ぎだと思いました。「起承転結」の「転」が強すぎる

しかもその「転」から、一気に物語は終わりに向かいます。
「レイア」の身の回りが明るみになり、「レイア」自身もそれを理解し、
なぜそんな変なことになったのか、「父」の視点から語られ、ネタばらしもあります。

ただそのネタばらしが、あまりに端的で、物足りなさが少しありました
非常に重厚な「起承」に対し、「転結」が貧弱に感じてしまいます。

なぜ「レイア」として育てたのか。
「ダフネ」はどうして存在していたのか。
なぜ「レイア」を、その世界から追い出したのか。

この辺は、それとなく語られます。
しかし前半にあった壮大な伏線は、この辺にはありません。

なぜ「父」は「レイア」の事を認めなかったのか。
なぜ何から何まで「嘘」であったのか。
どうして「怜」はまた「父」に会おうと思ったのか。

結末に関連する所は、余韻を残しつつ読者の想像に任される感じです。

もうちょっと挿話がほしい

ここは議論が分かれる所だと思いますが、
私は「広げた風呂敷くらい畳んで帰ってほしい」と思うタイプです。

物語として話を進めている以上、そこは理性的に片付けてほしい訳ですが、
本作は真逆で、「広げておいたから、畳んでおいて」と問いかけてきます。

つまり話が終わった時点で、はっきりしない所が多すぎて「うーん」となります
もうちょっと「父」側の挿話があると、もっと納得して読み終えることができたかも。

こういった「物語の余白」を楽しめる人でしたら、
ミステリ小説としてifをあれこれ考えて、まだまだ楽しむことができる小説です。

しかし私のように「物足りない」「腑に落ちない」と感じる人は、一定数いそうです。


まとめ

一言で言うと、「世界観は満点だけど、後半ちょっと物足りない」です。
ただ服部まゆみ氏は、こういう世界観の小説ばかり書いているという訳ではなさそうなので、
あくまで一ミステリ小説として消化するのが、著者の意図のようにも感じます

物語の発展やどんでん返し、ifを色々と掻き立てるミステリ小説としては非常に面白く、
独特で重厚な雰囲気に浸り、美しい世界観を堪能したいのであれば、表紙や設定程その満足感は得られないかもしれません。

一つ思ったのは、この小説は全て「レイアが盲目」であるために成り立ちます。
そしてその設定を、私達読者も想像の中で解釈することしか出来ません。
この点で、「レイア」と読者は視点が同じで、同じように「父」に騙されることになります。

その点が、この小説のユニークな点であり、面白い話の構成方法だと感じました。

ブクログ上は☆3にしておりますが、これは私の偏食による所が大きいと思います。
少し人を選びますが、雰囲気がしっかりしたミステリ小説が好きな方に、
是非読んでいただきたい小説だと思いました。